「ダイヤモンドはカットで選ぶ」。その言葉を、これほど体現しているブランドは他にありません。ラザール ダイヤモンドとロイヤル・アッシャーです。
どちらも単なるジュエリーブランドではなく、ダイヤモンドを自ら研磨する「カッター」として、100年以上にわたり世界のダイヤモンド史に名を刻んできた存在。婚約指輪の最高峰クラスを検討し始めると、必ずと言っていいほど候補に挙がる2ブランドです。
ただし、この2つは「どちらが上か」で比べるものではありません。目指す輝きの哲学が、はっきりと異なるからです。片や、数学が導いた理想比率でラウンドを極めるラザール。片や、王室の称号を持つスクエアカットの始祖、ロイヤル・アッシャー。この記事では、「リングの教科書」編集部が両ブランドを5つの軸で徹底比較します。カッターズブランド全体の解説は、ダイヤモンドカッターズブランドの記事もあわせてご覧ください。
ラザールとロイヤル・アッシャーはどっちを選ぶべき?
結論から言うと、選ぶ決め手は「どんな輝きに心惹かれるか」です。
- □ ラザール ダイヤモンドがおすすめな人:
王道のラウンドブリリアントで、「とにかく一番輝くダイヤモンド」を選びたい方。数学的理論に裏付けられた理想のプロポーションが生む、虹色にきらめく輝きが魅力です。 - □ ロイヤル・アッシャーがおすすめな人:
人と被らないスクエアフォルムと、王室ゆかりの格式に惹かれる方。直線的な光と高い透明感が生む「白く高貴な輝き」は、凛とした大人の印象です。
ラザールダイヤモンドとロイヤル・アッシャーの簡単比較表
まずは両ブランドの特徴を一覧表で比較してみましょう。同じカッターズブランドでも、ルーツも代表作も、まったく異なります。
| 比較項目 | ラザール ダイヤモンド | ロイヤル・アッシャー |
|---|---|---|
| 創業 | 1903年、ベルギー・アントワープ(後にニューヨークへ本拠地を移転) | 1854年、オランダ・アムステルダム(現在も本社はアムステルダム) |
| ブランドの顔 | 「カッティングの魔術師」と呼ばれた天才カッター、ラザール・キャプラン | アッシャー家が代々継いできたファミリーブランド(現在は5代目・6代目) |
| 代表カット | アイディアルメイク(ラウンドブリリアントの理想プロポーション) | ロイヤル・アッシャー・カット(スクエアのステップカット/74面体) |
| 輝きの性格 | 白色光・虹色の分散光・煌めきが調和する、七色の輝き | 直線的な光と高い透明感が生む、白く高貴な輝き |
| 格式の証 | 726カラットの巨大原石「ヨンカーダイヤモンド」のカットに成功 | 世界最大の原石「カリナン」のカットに成功。オランダ王室から二度「ロイヤル」の称号を授与 |
| デザイン展開 | アイディアルメイクのセンターダイヤを主役にした多彩なブライダルリング | 5種のオリジナルカットを軸に、ブライダルからファッションジュエリーまで |
| 詳しいレポート | ラザールダイヤモンドのブランドレポート | ロイヤル・アッシャーのブランドレポート |
ラザールダイヤモンドとロイヤル・アッシャーを5つの軸で徹底比較
① カットの哲学:ラウンドの「理想比率」 vs スクエアの「ステップカット」
最大の違いは、ダイヤモンドの形と、輝かせ方の思想です。
ラザール:数学が導いた「アイディアルメイク」
ラザールの代名詞が、1919年に生まれた「アイディアルメイク」です。創始者ラザール・キャプランの従兄弟で数学者のマルセル・トルコフスキーが、光の反射と屈折を最大化する正確な角度と数式を考案。その理論を、キャプランがカッティングの技術で実践しました。
注目したいのはその厳しさです。4Cのカット評価で最高グレードとされる「エクセレントカット」にも数値の幅がありますが、アイディアルメイクはそれよりもさらに狭い範囲に、テーブルやクラウン、パビリオンの角度と比率を設定しています。理想の比率に近づけるほど原石を大きく削ることになり、大きさ(カラット)は犠牲になります。それでも輝きを優先するのが、1世紀以上受け継がれてきたラザールの哲学です。実際、ラザールのリングに使われる0.18カラット以上のセンターダイヤモンドは、すべてアイディアルメイクにカットされています。
ロイヤル・アッシャー:スクエアカットの始祖が磨いた「ロイヤル・アッシャー・カット」
一方のロイヤル・アッシャーは、スクエア(四角形)の名手です。1902年、3代目ジョセフ・アッシャーが58面体の「アッシャー・カット」を開発。これがスクエアカットの原型となり、世界中のジュエラーが追随しました。
その正統な進化形が、2000年に発表された「ロイヤル・アッシャー・カット」です。面の数は74面体。これは、同社がカットを手がけた伝説のダイヤモンド「カリナンI世」「カリナンII世」と同じ面数にそろえられています。鏡のように平らな面を階段状に重ねるステップカットのため、光は直線的に反射し、高い透明感とシンメトリーの美しさが生まれます。なお、このカットに使えるのは、正八面体(オクタヘドロン)の中でも特に厳選された原石だけとされています。
面白いのは、ラザールも原石選びでは「ゆがみのない正八面体」を重視している点です。最高の原石を前にしたとき、「丸く理想比率に削る」のか「四角く直線美に削る」のか。カットの哲学の違いは、ここから始まっているのです。
② 歴史と格式:カッティングの魔術師 vs 王室の称号
ラザールの創始者ラザール・キャプランは、1883年に宝石商の三代目として生まれ、1903年、わずか20歳でベルギー・アントワープにて独立した天才カッターです。その名声を決定的にしたのが、1936年の出来事でした。著名な宝石商ハリー・ウィンストンから託された、726カラットもの巨大原石「ヨンカーダイヤモンド」のカッティングです。わずかなミスでも原石が粉々になると言われた危険な作業を、約1年をかけて計画し、見事に成功。この偉業により、キャプランは「カッティングの魔術師」「Mr.ダイヤモンド」と呼ばれるようになりました。
対するロイヤル・アッシャーの歴史は、さらに半世紀遡ります。1854年にオランダ・アムステルダムで創業し、世界史上最大のダイヤモンド原石「カリナン」(3,106カラット)のカットを成功させるなど、歴史に残る偉業を重ねてきました。その功績と信頼に対して、1980年と2011年の二度にわたり、オランダ王室から「ロイヤル」の称号を授与されています。「技術で世界を驚かせた男」のブランドか、「王室に認められた名門」か。格式の種類が違うのも、この2ブランドを比べる面白さです。
③ 輝きの性格:七色のファイア vs 白く澄んだ透明感
店頭で並べて見ると、輝きの性格の違いは一目瞭然です。
ラザールの輝きは、ブリリアンシー(白色光)、ファイア(虹色の分散光)、シンチレーション(表面の煌めき)という3要素が調和したもの。指を動かすたびに虹色の光が散らばる、華やかでドラマチックな輝きです。公式に「The World’s Most Beautiful Diamond®(世界で最も美しいダイヤモンド)」と称されるゆえんは、このバランスの良さにあります。
ロイヤル・アッシャーの輝きは対照的です。ステップカットは細かい煌めきよりも、大きな面が返す「白い光」が主役。派手さではなく、澄んだ透明感と凛とした直線美で魅せます。公式が表現する「白く高貴な輝き」という言葉がぴったりで、静かなのに目を引く、不思議な存在感があります。
④ デザイン展開:ダイヤ主役の王道リング vs フォルムで魅せるモダンなリング
ラザールのブライダルリングは、センターダイヤの輝きを主役に据えた王道のデザインが中心です。高硬度の新素材「フェアリープラチナム」による繊細な爪や細身のアームなど、ダイヤモンドをいかに美しく見せるかに技術が注がれています。サイドにメレダイヤを配したデザインでも、使われる小粒ダイヤにはセンターダイヤに準じた厳しい品質基準が設けられています。
ロイヤル・アッシャーは、フォルムそのものがデザインの主役です。代名詞のスクエアに加え、ラウンドブリリアント(74面体)、クッション、オーバル、ペアシェイプと、5種の特許を持つオリジナルカットを展開。ブライダルリングだけでなくファッションジュエリーの展開も豊富で、「この形だからこそ」の個性を楽しめます。婚約指輪も、スクエアのセンターストーンを据えたモダンで建築的な印象のデザインが得意です。
⑤ こんな人におすすめ
- ラザール ダイヤモンドがおすすめな人:婚約指輪は王道のラウンドブリリアントがいい/「ダイヤモンドの輝き」に一番こだわりたい/理論と実績に裏付けられた品質に安心感を求める/将来、結婚指輪との重ね付けも王道の組み合わせで楽しみたい
- ロイヤル・アッシャーがおすすめな人:人と被らないフォルムの婚約指輪がいい/スクエアやクッションなど個性のある形が好き/王室ゆかりのストーリーや格式を大切にしたい/派手な煌めきより、澄んだ透明感としっとりした輝きが好み
店舗で見比べるときの3つのポイント
どちらのブランドも、写真や数値だけでは判断できません。実際に店舗で両方を指に通して比べる際は、次の3点を意識してみてください。
1. 指をゆっくり動かして見る:ラザールの虹色のファイア(分散光)は、ダイヤを傾けたときに現れます。ロイヤル・アッシャーの魅力である「面の白さ」も、角度を変えることで実感できます。
2. 少し離れて見る:スクエアフォルムは、近づいて見るよりも、少し距離を取ったときのシルエットの美しさと存在感が際立ちます。鏡越しに手元全体で確認を。
3. 自分の手との相性を見る:ラウンドは指をふっくら柔らかく、スクエアは指先をシャープでモダンな印象に見せます。「どちらの輝きが好きか」と「どちらの形が手に似合うか」は別の話。両方試す価値があります。
よくある質問
Q. アッシャーカットとロイヤル・アッシャー・カットの違いは?
A. 1902年にロイヤル・アッシャーが開発した58面体の「アッシャー・カット」が原型です。その後、原型の意匠は広く流通し、一般のジュエリーでも「アッシャーカット」と呼ばれるスクエアカットが見られるようになりました。これに対して「ロイヤル・アッシャー・カット」は、2000年に同社が研究と改良を重ねて完成させた74面体のオリジナルカットで、ブランド独自のものです。名前が似ていても、中身は別物と考えてください。
Q. アイディアルメイクとエクセレントカットは何が違うの?
A. エクセレントカットは、4Cのカット評価における最高グレードですが、その中でも角度や比率には一定の幅があります。ラザールのアイディアルメイクは、その幅よりもさらに狭い数値範囲に各部の角度と比率を設定した、ブランド独自の厳格な基準です。原石をより大きく削ることになるため歩留まりは下がりますが、その分、輝きのバランスが整います。
Q. 格で比べると、どちらのブランドが上ですか?
A. 甲乙つけがたい、というのが正直なところです。片やカット技術の権威として、片や王室の称号を持つ名門として、それぞれ異なる形の「格」を持っています。ブランド全体の格付けの中での位置づけは、ジュエリーブランド格付けティア表も参考にしてみてください。
まとめ:選ぶ決め手は「丸の輝き」か「四角の輝き」か
ラザール ダイヤモンドとロイヤル・アッシャーは、どちらも「ダイヤモンドを自分たちでカットする」という、世界でも限られたカッターズブランドです。だからこそ甲乙ではなく、「理想比率で丸く削り、虹色に輝かせる」のか、「厳選原石を四角く削り、白く澄んだ光で魅せる」のかという、輝きの好みで選ぶのが正解です。
迷ったら、まず両ブランドのレポートで基礎知識を押さえてから、店舗で実物を見比べるのがおすすめです。ラザールについてはラザールダイヤモンドのブランドレポート、同じく最高峰の輝きを誇るエクセルコとの比較はラザール vs エクセルコの比較記事も参考になります。ロイヤル・アッシャーの詳細はロイヤル・アッシャーのブランドレポートへ。一生に一度の指輪だからこそ、カットの違いまで楽しみながら選んでください。



